20年以上、中小企業をサポートしてきている中で、3年くらい前から「変化の兆し」を感じるようになった。
時代の風向きが変わってきたのか、人々のマインドが変化したのか、或いは僕自身が歳と共に時代についていけなくなったのか…理由は一つじゃないと思うけれど、肌感覚として、「なんか今までと違う風が吹いてきた」と感じたわけです。
その「変化の兆し」は、新型コロナウィルスの影響で、より鮮明になったような気がしている。
生活環境の変化、時間の使い方の変化…etc、コロナ禍の自粛要請などをきっかけにして、僕たちの生活観は、内側からジワジワと変わり始めているような気がします。さらに、生活観の変化と共に、働く姿勢(労働観)も変化しているように感じます。高度経済成長の時代から延々と続いてきた労働観というか、仕事に臨む姿勢が、根底から変わりつつあると感じるわけです。
東京大学教授で社会学者の吉見俊哉氏は、「より速く、より高く、より強く」という「経済成長主義」のスローガンから、「より楽しく、よりしなやかに、より末永く」への価値転換が起こっていると言う。QOL(生活の質)やレジリエンス(柔軟さ)、持続可能性の方が大切だという価値観に、世界が変わりつつあるのだと。(*)
家族と共に過ごす時間、自分の趣味や勉強に使う時間、地域やコミュニティへの貢献に使う時間、そんな「スローで豊かな時間」の使い方に価値を見出す人が増えている。そういう時間が増えると、心にゆとりが生まれて、仕事でも新たなアイデアや発想が生まれる…はずだと思うんだけど、中々そうはならない。一人ひとりの心にゆとりが生まれたとしても、社内に「ゆとりを生かす環境」がないと、結局は「より速く、より高く、より強く」的な、旧時代的価値観の波に飲み込まれてしまうからだ。
もちろん、テレワークや自粛生活が重なって、コミュニケーション不足に陥り、不安や不満が募り、却って心のゆとりどころか、心が渇いてしまっている事例も急増している。DVやハラスメント、自殺者の増加という悲しい事例も多数ある。
だけど、一人ひとりの「心のゆとり」を生かすにしても、「心の渇き」を癒すにしても、大切なのは社内の環境だと思う。
こんな時代だからこそ、一人ひとりの違いを受け入れ、生かすための環境を創ることが必要だと思う。
一人ひとりの「違い」を知る機会、違いを生かし、想いをカタチにする楽しさを感じられる機会があるからこそ、人は会社に「居場所感」を感じることができる。
「自分は必要とされている」「誰かの役に立てている」という「「居場所感」を感じられる場所だからこそ、安心してチャレンジすることができる。そして、一人ひとりが居場所感を感じられる会社だからこそ、「より楽しく、よりしなやかに、より末永く」という価値観の時代であっても、(結果的に)成長し続けることができるんじゃないかと、僕は思うわけです。
そんな会社が増えるといいなと、心から思う。
(*)2021年1月13日、毎日新聞朝刊、論点