30代の頃、元文化庁長官で、日本の心理学者の草分け的存在だった河合隼雄さんと、セミナーでご一緒させて頂いたことがある。
河合さんは、リアクションの達人だった。
誰の話にも驚くほど大きく頷き、驚くほど大きな声で「うん、うん!」「はー、なるほど!」「へー!」等とリアクションされていた。
彼のリアクションは、場の空気を和やかな雰囲気に変えた。
その時僕は、コミュニケーションは発信よりも受信の方がずっと大切なんだ、と実感した。
コロナの影響で、オンライでのコミュニケーションの頻度が増えた。
高校や大学の授業でも、オンラインの割合が格段に増えている。
もちろん、仕事においても、営業や社内コミュニケーションのオンライン率は日増しに増えている。
オンラインのコミュニケーションが増えると、一人ひとりのコミュニケーションの「癖(傾向)」が、リアルの時よりも目立つように感じる。
リアルでのコミュニケーションの際に、「言いっぱなし」「一方的」な傾向が強い人は、オンラインだと更に「一方的感」「言いっぱなし感」が増すように感じる。
チャットやメールでのコミュニケーションでも、要件のみ、指示出しのみの発信になってしまう人が多い。
オンラインこそ、顔も仕草も見えないからこそ、相手に対する気遣いや配慮が必要なのに、そこに気付かない人が多い。
ズームやミート、スカイプなどのオンライン会議でも同じだ。
自分が話す時よりも、人が話している時のリアクションにこそ神経を使うべきなのに、そこを意識している人は驚くほど少ない。
社内SNSなどでも、誰かの投稿に対してきちんと返信したりスタンプなどで反応を示したりする人の割合は非常に少ない。
コミュニケーションを研究し、ロボットやCGキャラクターに応用している岡山県立大学教授の渡辺富夫さんが開発した植木鉢型の頷きキャラクター。アプリをダウンロードすると、PC画面上で会話に反応し、頷いてくれる。
オンライン授業で、学生の通信負荷を下げるためにカメラ機能をオフにして授業を行っているそうなのだが、顔が見えないと反応が分からず、講義に熱が入りにくかった。でもこのキャラをインストールしてからは、誰かが発言する度にこの「頷きキャラ」がフムフムと頷いてくれるようになった。
こんなバーチャルキャラクターであっても、頷いてくれるだけで講義への熱は格段に変わったそうだ。この技術を応用し、会社の会議などでも頷きキャラを配置し、会議の活性化に役立っていると言う。(※)
誰かが聞いてくれている、誰かが反応してくれていると感じるからこそ、何かを伝えたいと思うのだということを、改めて感じさせられた。
何を伝えるか、よりもずっと大切なのは、どのようにリアクションを示すのかなんだと、強く感じたわけです。
何を伝えるか?は、自分目線だけど、どうリアクションするのか?は、相手目線だ。自分がどうしたいか?ではなく、。相手はどうして欲しいか?を考えること。それがコミュニケーションを活性化させる1番のポイントだと思う。
そういう意味で、亡くなった河合隼雄先生は、本当にコミュニケーションの達人だったと思う。
オンラインコミュニケーションの増加が、リアクションの重要性に気付くきっかけになるといいなと、心から思う。
(※朝日新聞デジタル2021年1月10日https://digital.asahi.com/articles/ASNDX4SMXNDCUPQJ00D.html)