ドラマティック・マネジメントアワード(以下、ドラマネ)の発起人であり、葬儀会社社長の中川貴之氏、組織活性化コンサルタントで、勉強会の講師を担う森憲一氏、そして、ドラマネ審査委員長を務める阪井和男教授。それぞれの立場から、ドラマネが果たす役割、活動の成果などについて語っていただきました。
従業員が本気になれる。
それが、ドラマネの原点。
-まず、ドラマネ発足の経緯から教えてください。
中川 葬儀会社を立ち上げた2002年に、ある会社の社内活性化イベントの映像を見たんです。ひとつの会社が行うイベントとしては規模が大きく、何よりも、若い人たちが熱狂している姿に衝撃を受けました。
-そのイベントが、ドラマネの原点ですか?
中川 はい。私の会社でも、社員が本気になれる環境を作ろうと、独自に社内活性化にも取り組みましたがなかなか成果が上がらず、その上、弊社単独でその仕組みができるほどの大企業でもない(笑)。でも、葬儀業界全体を見回すと、大きな変化の波はすでにやってきていて、悠長に構えているわけにはいかなかったんです。
阪井 変化の波、というと?
中川 お客様の価値観、ニーズが変化しているにも関わらず、追いついていない私たちの現状に危機感を持っていました。
阪井 社内活性化と業界全体の意識改革が、ドラマネの狙いだった、ということですか?
中川 大きく言えばその二つになると思いますが、業界に関わらず、意識改革は成長の後に着いて来るものだと思っています。社長として従業員一人ひとりの成長を願っているものの、現実は、日々の仕事で本当に忙しい。年を重ねれば仕事も責任も増えるのに、学びの機会は存在しない。そんな環境で成長しろというのは酷な話しだと思っていました。
阪井 本当は、現場で働いている人が、もっとも敏感にお客様のニーズ、社会のニーズを受け取っているはず。でも、それを改めて考える時間も共有する機会もなく、さらに目の前の業務をこなすことで精一杯という日々。それが続くうちに受信感度はどんどん鈍っていき、最終的には何も感じなくなります。
中川 従業員の意識を変えて成長する仕組み、つまり、マネジメントで悩んでいる会社は多いと思ったからこそ、業界が一丸となって取り組めたら、もっと良くなると考えたのです。
森 その思いを携えて、私のところに相談にこられたのが、確か、2010年の10月頃でした。
中川 ここでようやく最初の話に戻るんですが、冒頭の社内活性化の仕掛け人が森さんだって聞いて、知人に紹介してもらって、事務所に押しかけました(笑)。
森 最初に私は「お金も労力も、精神的にも相当な負担がかかる。やるからには結果も残したい。それには相当な覚悟が必要です」と、暗に諦めるようにお話ししたのですが(笑)。
中川 こちらの想いは十年越しですから、そう簡単には諦めません(笑)。そして森さんたちは、私が「成果発表会の大舞台を目的にしている」と勘違いされていたようでした。私は大会の素晴らしさも興味がありましたが、それ以上に、あの壇上でプレゼンできるほど、イキイキと成果を目指すようになった理由、その仕掛けに興味があったので、改めてその話しを聞きたいと伝えたのです。
森 中川さんのその熱い想いに押されました(笑)。当時、私たちは、今で言えば「社内ドラマネ勉強会」を仕事にしていました。支店ごとに目標を立ててチームで目指す。そのプロセスで生まれた成功事例を発表して、学びを深める勉強会を開催し、全社で成功事例を共有する、というものです。
多くの会社では、他の支店、隣の部署のことをほとんど知らない。例えばA支店での成功事例はA支店だけのもの。そんな大切なことは共有せず、メールで済むような内容ばかり会議でやっている会社が多くてうんざりしていた時に、中川さんから「社員に学びの環境を」「一丸となれる会社を」と熱く語られたら、「応援しますよ」そう言うしかないですよね(笑)
中川 是非、その勉強会をやって欲しいとお願いしたんです。
森 社内ドラマネは、各部署が、それぞれに「高い高い目標」を設定して、月1回の勉強会に何名か参加する。自分たちが1ヶ月間実践してきたことをプレゼンし、他チームから学びを得る。職場に戻って皆で共有し、実践する…これを繰り返す半年間。そして選ばれたチームは、大きなステージ(憧れのステージ)でのプレゼンテーション。細かな違いは多々ありますが、今のドラマネとほぼ変わらないです。
中川 その勉強会の仕組みを聞いたら、「絶対やる!」しかないでしょう(笑)。しかも、イキイキと一丸となって成果を目指す。そんな勉強会が存在するなんて、衝撃的でした。
阪井 ドラマネ勉強会の成功要因は一つではありませんが、この「高い高い目標を設定する」というのが面白いですね。こんなにも高い目標だと、いつものやり方では到底達成できませんから、自分たちの思考の枠を外して、これまでと全く違うことを考えなければならなくなりますし、社内が一丸となって、全員で取り組まなければならない。
-でも、社内から「そんな高い目標やりたくないよ」とならないですか?
阪井 そうなんです。この不満の声が出てきたらチャンスです(笑)。「何故やるのか?」…つまり、自分たちがこの目標を目指す意味や価値、この目標を達成した先にある未来を、社長と一緒に考えざるを得ない。会社が目指す本当のミッションを改めて明確にして、全員が腹落ちしないと動けない。これが一丸となる会社をつくるための、大きなチャンスになるのです。
中川 先生がおっしゃるように、私も参加チームの社長として、「目標を達成した先にある未来」つまり「会社の目的」というものを、何度もなんども改めて考えさせてもらっています。当時から自分では明確にしていたつもりでしたし、従業員にも伝わっていると思い込んでいました。でも違った(笑)。もちろんまだ完璧だとは思いませんが、みんなが「自分たちがこの目標を目指す意味」を実感してから、会社が変わってきましたね。
作り手さえも変化成長させる
ドラマネの魅力とは。
-第2期から様々な業界が参加できるようになり、ほかにも変化を重ねていますね。
中川 第1期の成果発表会を見学に来られた社長たちから「ウチの業界も入れてよ」と軽く言われたのがキッカケなのですが、言われてみたら葬儀のやり方を勉強しているわけでもないし、業界関係なく「成果を目指す」という意味では、一緒にできるどころか、更に視野が広がるなと思った。それだけなんです。森さん達が大変だろうなとは思いましたけど(笑)
阪井 こうやって常に新しいことに挑戦する姿勢に、つい私も面白くなって、いつの間にか巻込まれてしまいます(笑)。
森 第1期から本質はなにも変わっていませんが、勉強会のスタイルは阪井先生をはじめ、戸田先生、ほか有識者の方が様々な情報を下さるので、毎回、進化させ続けています。主催する私たちも常に「高い高い目標」に向かって、トライ&エラーを無数に繰り返しています(笑)。
-やり続けてきて、森さんが思うことは何ですか?
森 本当にたくさんのことがありますが、受講生の皆さんが勉強会を楽しんでいる。という点には毎回驚かされます。「高い高い目標」って結構大変だと思っているんですよ、言っている私自身も(笑)。慣れるまでは勉強会もハードですし、私も時々辛辣なフィードバックもします。でも、毎回最後に書いてもらう振返りシートには、前向きな言葉が書かれていて、帰る時の表情は疲れているけれどイキイキしている。印象面ではそれが大きいですね。
-それは何故でしょうか?
森 阪井先生ともお話ししたことがあるのですが、おそらくそれは「安心して学べる場」であり、「安心して失敗できる場」だからと考えています。日常の仕事って失敗できないですよね。変な発言で会議を凍らせたり、取引先に失礼をしてしまったり。だから無難なことを選んでしまう。でもドラマネは、仕事そのもの(目標)をこの場に持ってくるわけですが、仮にこの場で失敗しても、失言しても、誰も何も困らない。これを活かして、現場で成功させればよいわけですから。
阪井 また、会社に居ると、真剣に考えごとをしているにも関わらず「ボーっとしてないで仕事しろよ」とか言われてしまう。「仕事=体を動かすこと」これはどの会社にもあるのではないでしょうか。ドラマネでは、安心して「深く考えることができる」「じっくり考えることができる」。これこそ、ドラッカーが言われる「知識労働者」の必須スキルだと思いますね。
-他にどんなことがあるでしょうか?
森 一つ、私が大きな勘違いをしていたと気付かされたことがあります。それは、ドラマネに参加してくださる社長は、私たちが思っていたよりも「数字的な成果」にさほど重きを置いていなかったということです。
-それはどういうことですか?
中川 社長として成果が上がるのはもちろん嬉しいし、成果にコミットしない勉強会であれば、元々興味がないです。でもドラマネに参加すると、成果を上げるには「良いチームにならなければならない」ことに気付かされるんです。社内に良い意味のぶつかり合いが沢山生まれて、強いのチームワークが作られていく。そこに成果が付いてくる。「成果を目指せる会社になったこと」が一番だと思いますよ。
森 「成果を目指すことを通じて、会社づくりをやっていた」と。成果を出す会社、イノベーションを起こす会社になるためには「参加型組織」であるべきだと思っています。第1期から参加している会社は、学びや経験が厚く積み重なっていますから、社長が「いくぞ!」と言うと、みんなが「おー!」と、一斉にイキイキと動ける会社になっている。最強の会社だと思いますね。
挑戦できる勇気は
「実感のある自信」から。
阪井 間違いなく言えるのは、すべての会社が、半年間で大きな変化と成長をしているという点ですね。そして社長自身も、彼らの変化や成長を見逃さなかった。社長としての素晴らしいサポートをされている会社が目立った年だったと感じます。
森 仰る通りです。参加メンバーも、自分自身も少し成長したんじゃないか…と思っているでしょうし、勉強会の仲間が変化成長している姿を見ています。共に学び、成長し合えたことをお互いに実感しているはずです。『成果を目指し、社内を巻込み、自分も成長し、会社が動いた』この実感から生まれる「自信」が、更なる高い目標に挑戦しようとする勇気を生み出す。人は自信が持てなければ挑戦する勇気を持つ事が出来ないんです。だから仲間と一緒になってそんな風に思えたことは、本当に大きいと思います。
阪井 今後も、挑戦し続ける会社であるために、この半年間の経験はとても価値のあるものだったでしょう。
森 このドラマネは、まだまだ小さな動きかもしれませんが、「誰もが輝く会社」が一社でも増えるよう、私たちも学び続けていきたいと思います。
中川 ぜひ、頑張りましょう。これからもよろしくお願いします!
株式会社アーバンフューネスコーポレーション 代表取締役社長 兼 CEO 中川貴之 |
1996年明治大学政治経済学部卒業。結婚式プロデュース会社、株式会社テイクアンドギブ・ニーズの立ち上げに参画。役員として株式上場に関わる。2002年10月葬儀業界へ転身を図り、株式会社アーバンフューネスコーポレーションを設立。2007年経済産業省主催ハイ・サービス日本300選 第1回選定企業受賞。2008年、ドリームアワード受賞。2012年、明海大学非常勤講師に着任。 |
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(株)サードステージコンサルティング 代表取締役 森憲一 |
これまで1000社、のべ3万人以上の経営者や従業員のサポートをし続けて来た、熱血教育コンサルタント。2012年からは、社会人のための学び場「ネクサミ白熱勉強会」の代表講師を務め、業種もまったく異なる会社の従業員同士が学び合い、脅威の成果を生み出す仕組みを確立。経営者からは、「従業員の可能性を絶対に諦めない先生」として定評がある。この「ネクサミ白熱勉強会」における成果と実践は、一人ひとりがイキイキと活躍しながら、圧倒的な業績を上げる“圧倒的な的な学習の仕組み”として、大学と共同研究されているテーマが多数。著書に「ドラマティックマネジメント(かんき出版)」「入社三年目からのツボ 仕事でいちばん大事なことを今から話そう(青春出版)」。明治大学サービス創新研究所副所長 |
明治大学法学部教授 サービス創新研究所所長 阪井和男 |
東京理科大学理学部物理学科卒、同大学院修士過程物理学専攻を経て博士課程を退学。ソフトハウスに勤務し理学博士号を取得。サイエンスライターを経て明治大学法学部専任講師、教授を歴任。明治大学サービス創新研究所所長、社会イノベーション・デザイン研究所副所長等を兼任。人・組織・社会の情報学など、経営学から死生学まで多岐にわたる研究をテーマとしている。 |